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2023 / 01 / 16  11:18

ベルギーのステンドグラス窓

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明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

久しぶりの投稿です。昨年末、修復のため長らくお預かりしていた作品が仕上がりました。全部で9点の大型作品だったため、すべての修復に2年かかりました。長期間のお預かりにもかかわらず、納品まで快く待ってくださったオーナー様に感謝しております。

この9作品は、ベルギーから運ばれた美しいステンドグラス窓で、オーナー様が、取り壊される邸宅の窓を1軒分すべて買い取って日本に運んできたというスケールの大きなストーリーのある作品たちです。長く倉庫で出番を待っていましたが、いよいよ取り付けが決まり、そのための修復を当工房が行うことになりました。倉庫からの運び出し、建具からの取り外し、新しい鉛線での組み直し、真鍮補強、磨き作業を経て完成した作品たちをご紹介いたします。

まずは倉庫からの搬出です。古い作品のため歪みもありましたので、捻りなどの負荷をかけないよう注意しながら建具を解体しました。搬出したのは3枚1組の窓が3セット。両開きの窓が2枚、その上に横長の窓が1枚、その3枚1組が古い木製建具に収まっていました。

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 ↑このような古い木製建具に入った状態で倉庫に保管されていました。かなり大型の窓です。ベルギーのどのような邸宅で使われていたのでしょうね。この「薔薇と青いリボンの窓」は同じデザインのものが2セットありました。「サンルームのような部屋で左右対称に配置されていたのかな」などと想像が膨らみます。持ち帰ってステンドグラスを取り外してみたところ、ステンドグラス本体のサイズが微妙に違っていたので、今回の修復では新しい建具に入れやすいように6枚のサイズ合わせをしました。

 

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 ↑こちらの「孔雀と花瓶の窓」は色彩が鮮やかで、とても華やかな作品です。上に入っている横長の窓がご覧の通りかなり歪んでいたので、これはすべてのガラスピースを一度取り外しての組み直しになりました。

3セットとも、木製建具に入ったままだと大き過ぎて運べないので、倉庫で1枚ずつ建具から取り外しました。それがかなり大変な作業でした。立派な木製建具は硬く、当時の職人技の木組みでとても頑丈に作られています。削ると木のいい香りがして、解体するのが惜しい気持ちもありました・・・。それでも窓を1枚ずつ取り外し、割れないように慎重に養生をして工房に持ち帰りました。

工房での作業は、それぞれのステンドグラスを窓枠から取り外すことから始めました。「ハツリ」と呼ぶ作業です。金属ヘラで窓枠とステンドグラス本体を固定しているパテを割り取り、さらに埋め込まれている小さな固定釘を抜き取ると、窓枠からステンドグラスが外れます。100年ほども経ったパテはとても硬いので、ガラスが割れないようにヘラの角度と力の入れ方を調整しつつ慎重に作業を進めました。

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窓枠からステンドグラス本体を取り外したら、作品の状態を確かめ、修復方針を決めていきます。アンティーク作品ですので、なるべくオリジナルの味わいを生かすよう、歪みの大きい作品のみ鉛線を全て組み直し、歪みの少ない作品は古い鉛線の一部交換で修復を進めていきます。鉛線を交換する箇所は、ガラスピースを慎重に鉛線から外し、残ったパテを掃除してから元通り配置して新しい鉛線で組み直し、割れたガラスピースは「ブリッジ」という方法でカバーします。

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組み上がったら、鉛線を染めていきます。新しい鉛線すべてにワイヤーブラシで細かい網目模様をつけ、松煙入りのパテをつめ、大鋸屑で磨いた後、馬毛ブラシで擦ると、松煙の黒色が鉛線の網目模様に擦り込まれ、美しい黒色になります。

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 最後に真鍮枠と真鍮棒で補強し、黒く染めて完成です。

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①孔雀と花瓶の窓(3枚セット)

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 ②③薔薇と青いリボンの窓(3枚セット) こちらは同一デザインで2セットあります。

 

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最後に磨き上げたステンドグラスは、ツヤツヤとガラスが光り、大変美しかったです。千切れた鉛線もすべて交換できたので、全体がピシッと整い、強度も出ました。建物に取り付けられたらどんなに素敵だろうなと思います。100年前の古いステンドグラスが新たな場所で再び輝く。その手助けができるこの仕事がとても好きです。

2022 / 08 / 25  15:21

久しぶりの投稿です

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こんにちは。ずいぶん久しぶりの投稿です。なんと5ヶ月ぶり。ずっと大型作品の修復にかかりきりで、気がつけば夏も終わりに。原村は夏の勢いが鎮まり、朝晩はすっかり秋の気配です。

今、アトリエで修復中なのは、3枚組の大型窓が2点、そして9枚組のパネル(9枚を組み上げると横幅2メートル×高さ3メートルになる大型作品です)、そして高さ2メートルの窓が2点。どれもアンティークのステンドグラス作品で、非常に美しいものです。完成しましたらまたご報告いたします!

合間合間にも修復のご依頼があり今日はそのうちの1点をご紹介します。

県内のお客さまからご依頼いただいたのがドアの嵌め込み窓の修復です。強い風でドアがバタンとなった衝撃で、平らだった窓の中央が飛び出してしまい、横からみるとちょうど富士山のように山型になってしまったとのこと。

経年劣化と変形で鉛線がちぎれてしまっていたので、鉛線をすべて取り替える修復になりました。

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大型の窓ではないものの、小さなガラスパーツが組み合わさった凝ったデザイン。すべてのガラスパーツの配置図を描き、鉛線の組み順を確認してから全解体し、同じ組み順になるように組み直します。今後同じような破損が起きにくいように、以前より強度のある真鍮線の入った鉛線を使用しました。

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 ピシッと組み上げた作品を見ていただいて、ご依頼者さまにとても喜んでいただけました。

 

 

 

2022 / 03 / 07  11:53

「桜」と「紅葉」の窓ができました

「桜」と「紅葉」の窓ができました

こんにちは。すっかり春らしくなってきたと思っていたら、昨日はまたうっすらと雪が。原村は春と冬がいったりきたりの季節です。

 

一昨日、また新しい窓を納品しました。名古屋のOさまからご依頼いただいた「桜」と「紅葉」のステンドグラス窓です。Oさまから「こういうデザインで」と原画をいただき、その原画のイメージをステンドグラスで再現しました。

 

 

下の絵がOさまからいただいた原画です。2枚で1組、それぞれ春の山に咲く桜と水面に揺れる紅葉が描かれています。季節感のある優雅なデザインですね。洗面所など室内の間仕切りドアに入れる窓のため、透けない乳白色系のガラスでつくることになりました。

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 Oさまにいただいた原画を、ステンドグラス用のデザインに調整したのが下の絵です。ガラスの切り方やつなぎ方を考え、強度が出るようにするとこうなります。いただいた原画より線が増えますが、黒い線のつながり方が特徴的で、よりステンドグラスらしい感じになります。

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色を塗って、ご提案用の原画が完成です! Oさまに見ていただき、ガラスの色のご希望を伺って本製作に入りました。

春の桜は数種類のピンクのガラスを使い分けて、立体感や薄墨がかった部分を表現してみました。ちなみにステンドグラス用のガラスで一番高価なのがピンクのガラス。透明なピンクガラスは「ゴールドピンク」といわれ、金で発色されるのです。紅葉の方は、若干透け感のあるガラスもとりまぜ、水流や波紋の青のグラデーションと紅葉の赤が鮮やかに引き立てあう色使いにしてみました。葉色の変化が美しい紅葉の葉は、赤をメインに、緑、オレンジ、黄なども使い、自然な感じに。

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4枚とも縦横20センチほどの小さな窓ですが、ひとつの窓につき50〜80ほどのガラスピースを使います。桜の花びらに細かな切れ込みを入れたり、1センチにも満たない小さなピースを使ったりと、小さいながらとても手のこんだ繊細なつくりの作品となりました。

 

そして完成!

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間仕切りのドアに入れる窓なので、日常のドアの開閉動作でガラスが割れないよう、ステンドグラスを囲む鉛線のまわりにさらに真鍮の枠を付け、しっかり補強してあります。優しい色合いの春の桜と鮮やかな秋の紅葉。美しいです。完成した窓を見て、Oさまご夫妻がとても喜んでくださいました。「頼んでよかった」と言っていただけたこと、本当に嬉しく思います。

 

 

 

 

2022 / 03 / 05  17:15

生徒さん作の「ホワイトテリアの窓」を取り付けてきました

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こんにちは。原村はなんだか春の気配です。

軒下のつららが消え、庭の雪もだいぶとけ、もぐらが元気に穴を掘り始めました。小鳥もよく鳴いています。そうそう、近くの小川の土手ではふきのとうも顔を出しています。息子がさっそくとってきて、初物はお味噌汁でいただきました。

先月末にステンドグラスの取り付けにいってきましたのでご報告しますね。

取り付けに伺ったのは北杜市のHさま邸。去年の10月にHさま作の「ホワイトテリアの窓」を取り付けましたが、同じ室内の対になった窓にもお揃いのデザインの窓を入れることに。前回とは逆に、左側に取っ手のある窓枠をつくっていきました。

Hさまの窓で特筆すべきは使用したガラスの上質さです。Hさまはシンプルなデザインがお好みなので、すっきりとした線だけのデザインですが、その分、ガラスの上質さで窓の印象が決まります。今回も、もう手に入らないアンティークガラスをふんだんに使用し、色と質感の美しさが際立つ作品になりました。左下の絵付けのテリアちゃんがデザインのポイントです。

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今回も、きちんとひらく窓枠です。

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金属のサッシが室内側から見えなくなることで、落ち着いた雰囲気の窓辺になりました。

Hさまは原村のアトリエのステンドグラス教室に通ってくださっています。今回入れた窓のほかにも、昨年夏には2階の吹き抜けの仕切り壁に自作のステンドグラスを入れるなど、お好きなデザインでステンドグラスを作られては、生活の中で楽しんでいらっしゃいます。ステンドグラスの鮮やかな色が、Hさま邸の白い壁に映えて、行くたびに嬉しい気持ちになります。

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これが2階の吹き抜けの仕切り壁です。もともとあいていた4箇所のスペースにぴったり合うステンドグラスを自作されました。同じデザインですが、真ん中の色違いのガラスが効いていて、リズム感がありますね。太陽が出ている日はずっと、青やオレンジのガラスの色が階下の白い壁に映るそうです。まるで日時計のようですね。

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見下ろすとこんな感じです。白い押縁でステンドグラスをはめています。

時間ができたら、ワークスペースとリビングの間仕切りの壁にもステンドグラスを入れたい、とHさま。また教室でお待ちしていますね!

 

 

 

 

2022 / 02 / 15  14:06

チャールズ・イーマー・ケンプ作品模写による「天使の半円窓」

チャールズ・イーマー・ケンプ作品模写による「天使の半円窓」

こんにちは。久しぶりの投稿です。

昨年末からの納品ラッシュ、2月に入りようやく一息つきました。この間、大型のアンティーク窓の修復や新築の住宅窓などを手がけておりましたが、今日はそれらの中から昨年12月に納品した「天使の半円窓」をご紹介します。

 

ステンドグラス窓をご依頼くださったのは千葉市にお住いのNさま。「天使の顔を描いた小さなステンドグラスを1枚持っているので、そのステンドグラスを使って、キッチンの窓をつくってほしい」というご依頼でした。ご自宅に下見に伺ったところ、キッチンには2つの半円窓がありました。せっかくなら2つの窓をお揃いのデザインでつくりたいと思いましたが、デザインを揃えるためにはNさまのお手持ちのステンドグラスだけでは足りません。そのため、お手持ちのステンドグラスと対になるように、もうひとつ新たに天使の顔のステンドグラスをつくることにしました。

Nさまがお持ちの天使の顔のステンドグラスは、19世紀イギリスのステンドグラス職人、チャールズ・イーマー・ケンプの作品の模写でした。そのため、新たにつくるステンドグラスは、ケンプの同作品に描かれた別の天使像としました(ケンプのこの作品には、美しい衣装を着けた4人の天使像が描かれているのです)。

左右の窓にバランスよくおさまるよう、顔を右向きにした天使像を選びました。これをガラスに絵付けしていきます。

向かって左側が見本となるケンプ作品です。見本を見ながら、グリザイユ(釉薬)を使って透明ガラスに模写していきます。線の太さ、濃さ、陰影のつけ方など、本物そっくりに描きます。ちなみにこの作品のような人物の髪の毛を描くときに使うのは鳥の羽。弾力のある軸で、表情豊かな線がひけます。

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まずは輪郭線を描いて窯で焼成。そのあと、だんだんと濃く陰影をつけ、何度も焼成を重ねます。

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顔や手、翼や衣装など、パーツごとに絵付けと焼成を重ねていきます。今回は微妙な陰影の作品なので、完成まで5回焼きました。

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最後にシルバーステインで髪や冠に黄色の着彩、焼成して絵付けは完成。美しい横顔の天使ができました。次はそれぞれのガラスパーツを細い鉛線で組んでいきます。

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天使のメダイヨン(円形メダル)のまわりに淡い色のアンティークガラスを嵌めていきます。 

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半円窓の完成です。

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美しい天使の顔、翼、真珠のついた衣装など、とても繊細な絵付けのメダイヨン。Nさまご指定の淡い背景のアンティークガラスも上品で、素晴らしい作品になりました。Nさまのお手持ちの天使の顔の窓も同様のデザインでつくり、2枚の半円窓が無事完成! 

「クリスマス前に窓に取り付けたい」とのご希望により、すぐに千葉市のご自宅に取り付けに伺いました。長野から久しぶりの東京を経由して千葉へ。Nさま、なんと素敵なランチを用意して待っていてくださいました。クリスマスに向けて美しく飾られたお部屋でいただくランチの美味しかったこと。感激しました。

ステンドグラスのサイズに合わせてつくった半円アーチの木製サッシを持参し、現場で微調整しながら既存の窓の内側に嵌めていきます。半円アーチのサッシは少々取り付けに苦労することが多いのですが、今回はとてもスムーズにいきました。

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無事、2枚の窓の取り付け完了です。明るいキッチンなので、ステンドグラスを入れるには最高でした。光が透けてとても綺麗です。相談を重ねて決めた青いガラスが効いています。Nさまご夫妻がとても喜んでくださり、嬉しい気持ちになりました。クリスマスに間にあってよかった!

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