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マルタとマリア
こんにちは。
この夏に修復完了&納品した作品をご紹介します。
宗教画のステンドグラスで、題材は「マルタとマリア」。
9枚セットの大作で、中段の3枚にはキリストを中心に、跪いて話を聞く妹・マリアと、パン籠を持つ姉・マルタが描かれ、上段の3枚は凝りに凝った建築モチーフの多葉形アーチ、下段の3枚は天使像を中心にした装飾と飾り文字で構成されています。
いつもお世話になっているアンティークショップさんのコレクションで、組み立てると、縦3メートル、横2メートル以上になります。19世紀後半のベルギーのJ・B・CAPRONNIER作。パリの万国博覧会でも受賞したステンドグラス製作者の作品です。日本にある彼の作品はこれだけだと思います。
お客さまがご購入後、そのままでは建具に入れられないので、1枚ずつ割れや歪みを修復し、それぞれの縦横の寸法を揃え、外周を真鍮枠で補強して納品しました。昨年秋からの修復で、今年6月に完成して7月初旬に無事納品となりました。
このステンドグラスは非常に凝った作品で、様々な絵付技法が駆使されています。修復していると当時のステンドグラス製作者の意気込みが伝わってくるようでした。ガラスカットもあえて難しいことをしています。腕自慢の工房だったのでしょう。
妹・マリアの首元の大きな割れ部分は新たに鉛線を入れ直して修復しました。
姉・マルタの額にも同様の割れがありました。
両方とも、過去の修復者によって「ブリッジ」という方法で処置されていました。鉛の帯でガラスの割れ目を隠す処置です。今回は、今後のことを考え、ガラス同士が触れ合って大事な顔部分の割れが進行するのを防ぐため、H型の鉛線で組み直しにしました。
下段中央の天使像がとても美しかったです。 写真上部の床の木目の描き方も凝っていますよね。
ダマという技法で描かれた背景のカーテンの模様が美しいです。あと、全体的に、それぞれの人物の「手」の描き方が美しいなと思いました。
修復中は窓辺に作品を立て掛けてありました。とてもいい眺めでしたが、アトリエではスペース的に9枚全てを組み立てて見ることはできません。それは取り付け後のお客さまの楽しみです。
建具に納められ、9枚が組まれたらどんなに美しいでしょうね。これだけの大型作品はなかなかありません。私も修復者として貴重な体験をさせていただきました。感謝しています。
ステンドグラスで肖像画を描きました
こんにちは。
9月に入り、原村はすっかり秋の気配です。今年の夏は、意識的にいつもよりゆっくりと過ごしました。
原村の夏祭りや諏訪湖の花火大会、近所の八ヶ岳自然文化園の「星空の映画祭」・・・。たくさんの夏のイベントを満喫しました。
もちろんステンドグラスの仕事も進めておりましたよ。
久しぶりの投稿ですが、順番にこの夏の仕事の様子をご紹介していきます。
まずは最新の仕事から。
ステンドグラスで描いたダックスちゃんの肖像画です。
うちの教室に通ってくださっている生徒さんからのご依頼で、生徒さんのお客様へのプレゼントとのこと。鮮やかなアンティークガラスでつくったステンドグラスのフレームは生徒さん作。そしてお客様の愛犬の肖像画が私の作。二つを組み合わせ、合作で仕上げた肖像作品です。
最初は生徒さんがガラスの配置を決めてフレームをつくりました。アンティークガラスの端切れを並べながら一番美しく見える配色で組み上げていきます。フレームができあがったら、お預かりしていたお客様の愛犬の写真を元に、私が肖像画の絵付けをしていきます。
透明ガラスの上に釉薬で輪郭を取り、次に写真を見ながら筆で徐々に陰影をつけていきます。この写真は2回目の焼成の頃です。一度焼いてしまうと釉薬がガラスに焼き付けられて絶対に元には戻らないので、絵付けと焼成にはいつも神経を使います。夜中、家人が皆寝てしまってからが絵付けの時間。吐く息にも注意しながら、慎重に釉薬をのせて描いていきます。
この写真は4度目の焼成の頃です。この段階になると目や鼻の色もしっかりつき、だいぶ似てきます。焼成を繰り返すとガラスが割れてしまうことがあるので、どこまで陰影をつけるか、絵付けの退き際を見定めるのも大切です。今回は背景に淡い水色を入れて、5回目の焼成で完成させました。
生徒さん作の鮮やかなフレームが光に映えて、すごく素敵な作品になりました。愛犬のダックスちゃんの優しい目元や柔らかい毛の感じ、湿った鼻の感じがうまく表現できていて、自分としてもとても気に入った作品になりました。喜んでくださるといいです。