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ベルギーのステンドグラス窓
明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
久しぶりの投稿です。昨年末、修復のため長らくお預かりしていた作品が仕上がりました。全部で9点の大型作品だったため、すべての修復に2年かかりました。長期間のお預かりにもかかわらず、納品まで快く待ってくださったオーナー様に感謝しております。
この9作品は、ベルギーから運ばれた美しいステンドグラス窓で、オーナー様が、取り壊される邸宅の窓を1軒分すべて買い取って日本に運んできたというスケールの大きなストーリーのある作品たちです。長く倉庫で出番を待っていましたが、いよいよ取り付けが決まり、そのための修復を当工房が行うことになりました。倉庫からの運び出し、建具からの取り外し、新しい鉛線での組み直し、真鍮補強、磨き作業を経て完成した作品たちをご紹介いたします。
まずは倉庫からの搬出です。古い作品のため歪みもありましたので、捻りなどの負荷をかけないよう注意しながら建具を解体しました。搬出したのは3枚1組の窓が3セット。両開きの窓が2枚、その上に横長の窓が1枚、その3枚1組が古い木製建具に収まっていました。
↑このような古い木製建具に入った状態で倉庫に保管されていました。かなり大型の窓です。ベルギーのどのような邸宅で使われていたのでしょうね。この「薔薇と青いリボンの窓」は同じデザインのものが2セットありました。「サンルームのような部屋で左右対称に配置されていたのかな」などと想像が膨らみます。持ち帰ってステンドグラスを取り外してみたところ、ステンドグラス本体のサイズが微妙に違っていたので、今回の修復では新しい建具に入れやすいように6枚のサイズ合わせをしました。
↑こちらの「孔雀と花瓶の窓」は色彩が鮮やかで、とても華やかな作品です。上に入っている横長の窓がご覧の通りかなり歪んでいたので、これはすべてのガラスピースを一度取り外しての組み直しになりました。
3セットとも、木製建具に入ったままだと大き過ぎて運べないので、倉庫で1枚ずつ建具から取り外しました。それがかなり大変な作業でした。立派な木製建具は硬く、当時の職人技の木組みでとても頑丈に作られています。削ると木のいい香りがして、解体するのが惜しい気持ちもありました・・・。それでも窓を1枚ずつ取り外し、割れないように慎重に養生をして工房に持ち帰りました。
工房での作業は、それぞれのステンドグラスを窓枠から取り外すことから始めました。「ハツリ」と呼ぶ作業です。金属ヘラで窓枠とステンドグラス本体を固定しているパテを割り取り、さらに埋め込まれている小さな固定釘を抜き取ると、窓枠からステンドグラスが外れます。100年ほども経ったパテはとても硬いので、ガラスが割れないようにヘラの角度と力の入れ方を調整しつつ慎重に作業を進めました。
窓枠からステンドグラス本体を取り外したら、作品の状態を確かめ、修復方針を決めていきます。アンティーク作品ですので、なるべくオリジナルの味わいを生かすよう、歪みの大きい作品のみ鉛線を全て組み直し、歪みの少ない作品は古い鉛線の一部交換で修復を進めていきます。鉛線を交換する箇所は、ガラスピースを慎重に鉛線から外し、残ったパテを掃除してから元通り配置して新しい鉛線で組み直し、割れたガラスピースは「ブリッジ」という方法でカバーします。
組み上がったら、鉛線を染めていきます。新しい鉛線すべてにワイヤーブラシで細かい網目模様をつけ、松煙入りのパテをつめ、大鋸屑で磨いた後、馬毛ブラシで擦ると、松煙の黒色が鉛線の網目模様に擦り込まれ、美しい黒色になります。
最後に真鍮枠と真鍮棒で補強し、黒く染めて完成です。
①孔雀と花瓶の窓(3枚セット)
②③薔薇と青いリボンの窓(3枚セット) こちらは同一デザインで2セットあります。
最後に磨き上げたステンドグラスは、ツヤツヤとガラスが光り、大変美しかったです。千切れた鉛線もすべて交換できたので、全体がピシッと整い、強度も出ました。建物に取り付けられたらどんなに素敵だろうなと思います。100年前の古いステンドグラスが新たな場所で再び輝く。その手助けができるこの仕事がとても好きです。